研究概要
当研究室では、様々な数理的手法(数理計画法、確率統計法、計量経済分析など)を用いて、エネルギー・環境・経済システムに関連する諸問題の分析や、関連政策・技術開発の評価を行っています。
大量のデータ調査(国際エネルギー統計、経済統計等)や、大規模なコンピュータプログラムの作成(線形計画法等の数理計画プログラム、マルチエージェント型強化学習などのシミュレーションプログラム等)に基づく研究が中心です。
エネルギーシステムの分析では、安定供給、経済効率性、環境性、安全性など様々な要素を考慮しなければなりません。特に、近年では、カーボンニュートラルに向けた新エネルギーや新技術の大量導入、災害や地政学リスクによるエネルギーの安定供給、エネルギー価格の高騰など、エネルギーを取り巻く情勢は複雑化しています。そのため、エネルギー工学だけでなく、広い工学的視点、そして社会科学的視点や経済的視点など、幅広い視点を持ちながら研究を行っています。
具体的な研究内容は以下の通りです。
世界エネルギーモデル

世界エネルギーモデルは、世界全体の長期的なエネルギー需給などを大規模数理計画問題としてモデル化することで、各種のエネルギー供給技術の導入可能性や、エネルギー安全保障の評価、地球温暖化対策などの政策評価について分析できます。地域間での燃料の輸送なども考慮している点や、2100年までを想定した長期的な分析などが特徴です。
最適電源構成(Optimal Power Generation Mix)モデル

最適電源構成(OPGM)モデルは、風力や太陽光といった再生可能エネルギー、電力貯蔵装置、コージェネレーションシステムなどの分散電源の大量導入が電力系統の運用や設備構成に与える影響を分析できます。日本全体の電力系統設備や電力負荷などを高解像度でモデリングすることで、電源計画の最適化をはじめ、新技術の導入可能性や、系統設備投資・電力市場政策の評価なども行っています。
技術選択モデル

技術選択モデルは、エネルギーシステムを構成する技術の工学的・経済的特性を詳細に考慮することで、カーボンニュートラルに向けた日本におけるエネルギー技術選択の最適化について分析できます。エネルギー技術の分析のため、エネルギー源の輸入・生産や輸送、消費部門を詳細化している点が特徴です。特に、二酸化炭素回収技術や、自動車技術構成(パワートレインミックス)に関する分析を行っています。
確率動的計画モデル

確率動的計画法は、特定の確率で遷移する状態を考慮することで、主にレジリエンスに関する分析に用いることができます。具体的には、他の線形計画モデルと組み合わせて、災害等によるエネルギー供給途絶の発生を考慮した分析などを行っています。停電など偶発的に発生するリスクを考慮したレジリエンスの評価は、特に東日本大震災以降、重要度が増しています。
電力市場モデル

電力市場モデルは、強化学習型マルチエージェントシミュレーションを用いて、ゲーム理論に基づく市場参加者の行動や、電力価格に関する分析ができます。最適電源構成モデルと組み合わせることで、実際の日本の電力系統を反映した分析もできます。再生可能エネルギーの大量導入が市場にもたらす影響の評価や、地点別電力価格の分析、電力市場の制度設計を行っています。